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正統ハリーファ伝3:「アフル・アルリッダ(棄教者)との戦いその2」

 リッダの諸軍団に対してアブー・バクルは、忠誠心や信仰心は疑問だが天才的軍略の持ち主であったマフズーム家のハーリド・ブン・アルワリードに、ヒジャーズ地方の遊牧民からなるウンマ直属の精鋭を与え派遣したのである。
 以下、各地で行われた主な戦闘を個々に解説していこう。

632年9月 ブザーハ(Buzakha)の戦い。
 アサド族のトゥライハは、ムハンマドの死を知ると(あるいはそれ以前から)ガタファーン族の勢力を背景に、マディーナ東方に軍事力を形成した。
 ムハンマドの遺志により、彼の死後ウサーマ・ブン・ザイドは、ウンマに忠実なアラブ部族軍を率いて、タブークやムウタに略奪遠征に出発した。
 遠征自体は問題なく成功するが、ウサーマが出陣して1週間から2週間が過ぎた頃、トゥライハが、この軍事的な空白をついて軍勢を率いマディーナを襲撃し、包囲したのである。
 マディーナ側は反撃を試みたが、一度は撃退されマディーナに逃げ戻る羽目となったと言われている。
 アブー・バクルは、周辺部族から兵士を掻き集めて防御を固め、マディーナを守りきると、さらに奇襲によってトゥライハ軍を退却させる事に成功した。
 その後、アブー・バクルは各地にイスラーム信仰に復帰するよう各地に使者を派遣したが、結果は思わしくなかった。
 ハリーファは、アラビア半島の諸勢力の従面腹背を痛感し、マディーナにすら軍事的な脅威が差し迫った現在の情勢をみて、武力による解決以外に道がない事を悟った。
 こうしてウサーマの部隊が北方の略奪から帰還すると、アブー・バクルは11名の指揮官にそれぞれ部隊を与えて、各地の討伐に向かわせたとされる。

 ・ハーリド・ブン・アルハリード
 イスラーム最高の名将であり、「神の剣」と称された。主力部隊を率いて反乱の主力部隊と戦う事を命じられた。 

 ・イクリマ・ブン・アビージャフル
 ・シュラフビール・ブン・ハサナ
 イクリマは軍を率いてムサイリマに対峙し、増援が来るまで、そのけん制を命じられた。シュラフビールは後のシリア遠征軍指揮官の一人で、この当時はイクリマへの援兵を率いるように命令された。しかし他の部将と統一された作戦行動が取れていたわけではなかった。

 ・アムル・ブン・アルワース
 ハーリドと並ぶ名将。娼婦の子であるとの伝説もある。アラブきっての軍略家であり、政治家としても謀略家としても、実に老獪であった。リッダ戦争では、タブークなど北アラビア地域の不穏分子の討伐を命じられた。
 
 ・ハーリド・ブン・サイード
 シリア方面の背教者達の討伐を命じられた。

 ・トゥライファ・ブン・ハジーズ
 ヒジャーズ地方東のハワーズィン族とスライム族の内、ハリーファの命令に従わなかった部族に派遣された。

 ・アラー・ブン・アルハドラマーニー
 バフライン討伐に派遣された。

 ・フダイファ・ブン・ミフサーン
 オマーン討伐に派遣された。

 ・アフラジャ・ブン・ハルサマ
 マーラの棄教者に対して派遣される

 ・ムハージール・ブン・アビー・ウマイヤ。
 ・スワイド・ブン・ムクラーン
 当初はイエメン方面を担当した。。

 最大の軍隊を与えられたのは、実戦経験が豊富で当時最高の将帥と考えられ、実際その通りであったハーリド・ブン・アルワリードであった。
 そのワーリドが、まずやらなければならないのは、マディーナを襲ったトゥライハを支持するガタファーン族対策であった。
 これを撃退しなければ、マディーナは自由に行動ができなからである。
 632年9月中旬、ハーリドはタイイ族を武力で恫喝して従わせた後、退却したトゥライハを追った。軍勢はブザーハの地に至り、ここで両軍の会戦が行われたようである。
 トゥライハの手勢は15000名余り、ハーリドの軍は6000名前後であったと言われている。
 しかしハーリドの軍隊は士気の高いウンマ最精強の部隊であり、正面からぶつかり合った形の戦闘は短時間でハーリド軍の勝利に終わった。30キロほど離れたガムラの地にまで退却したトゥライハであったが、追撃してきたハーリドの軍勢になんなく捕捉された。
 9月の第3週に再び戦闘が行われ、組織的な戦闘能力をすでに失っていたトゥライハは、壊滅的な敗北を喫し、降伏した。
 トゥライハはイスラームに戻る事を誓い、聖戦への参加を希望した。しかしアブー・バクルは再入信は許したが、戦闘参加は認めなかった。
 632年10月、6000名の兵士と共にナクラに達したハーリドは、この地の反乱者であるサリーム族に攻撃をかけて屈服させ、彼らに税納を約束させた。
 ハーリドは10月の後半にはザファールの地を征討の完遂し、こうしてマディーナ周辺の反乱勢力は一掃されたのである。

 
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